• ヲノサトル

新幹線の好敵手





新幹線に乗った。


機材や楽器があるので、最後尾席を予約しておき、座席後ろの空白地帯にトランクや楽器を詰め込む作戦に出たのだが、同じことをしている御仁と隣り合わせた。


年の頃40代、Tシャツにスニーカーとラフな格好だが、腕時計とバッグはブランド品だ。楽器こそ見当たらないが、何らかの業界人と見受けられる。


この隣人、座席に着くなり、小ぶりのキャンバス地のバッグを取り出した。チラッと見えた内張りは銀色。保冷バッグだ。(プロだな)そう直観した。


果たして、彼が白ポリ袋からガサガサと取り出したのは、泣く子も黙る駅弁界のスーパースター「崎陽軒のシウマイ弁当」


件の保冷バッグからは、てらいもなくアサヒスーパードライの350ml缶を取り出してその横に置いた。王の道と書いて王道。何人たりとも否定できない、まずは盤石の組み合わせである。


一方、シウマイ弁当を横目で見ながら当方が取り出したのは「幕の内弁当」


関東の深川めし、東海みそカツ、関西の湯葉…と、ライヴツアーでいえば「東名阪」を網羅し、チマチマ細かい品を詰め込んだ食の玉手箱だ。どこから手をつけていいか迷う。だが、その贅沢な迷いの時間こそが、日常を離れた「旅」の醍醐味だ。


ここで駅弁について個人的な嗜好を語らせていただけば、焼肉弁当や鰻弁当やカニめしといった「一色に塗り込められた弁当」を当方は好まない。可能な限り多種多様な具材が散りばめられ、それぞれの自己主張がおつまみとして立ち上がってくる、そんな弁当を好む。みんなちがって、みんないい。金子みすゞか


キンキンに冷えたビールを美味そうに口もとに運ぶ隣人。なるほど保冷バッグの持参とは、うかつにも気づかなんだ…。


だが、どっこい。こちらは駅ビルの食品売り場から、使い捨ての小パック保冷剤をたんまりせしめてきた。ケーキなんか買うと箱にペトッと貼り付けてくれる、アレである。


世の中、備えあれば憂いなし。だが、備えがない時はない時で、現地調達するサバイバル精神もまた、呑み師の条件。


スーパードライ2本でシウマイ弁当を綺麗にたいらげた隣人に無言のエールを送りつつ、こちらもサッポロ黒ラベルのロング缶1本からの、保冷剤でキンキンに冷えた獺祭大吟醸の300mlで幕の内を片付け、まずは引き分けといったところか。


…と思いながら隣を見たら、


なんと!


隣人はガサゴソと、ジップロックの袋に入れた大量の豆 ? ナッツ ? ドライフルーツ? 的なものを取り出しおった!


弁当後の、満腹のようなちょっと物足りないような微妙な時間。きゃつはポリ…ポリ…とそれらをかじりながらつぶそうというのか。そして取り出した3本めのビール


一方こちらは、もはや徒手空拳。酒もツマミも失ったまま、隣人の至福の時間を横目で眺めるほかない。


この戦(いくさ)、破れたり……。(涙)

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