息子が生まれる直前のことだ。事情があって、いささか暗い気分で夫婦で病院に通ってたことがある。
ある日、かなり重そうな障碍の男児を車椅子に乗せた白人男性と隣り合わせた。5歳ぐらいだろうか。管を鼻に挿し、点滴をつないで、苦しそうに息をしている。
男性はTシャツにショートパンツ、典型的なカリフォルニア・スタイル。「さぞ、たいへんでしょうね」と声をかけたら「全然!彼は天使だからね。一緒にいられるだけで毎日がハッピーだよ!」と、じつに朗らかに返された。
「angel」「angel」と何度もくりかえすその言葉をきいて、抱えていた不安がすっと消えていったのを覚えている。
どんな子供が生まれてくるんだろうとか、子供ができたらどんなリスクを抱えることになるんだろうとか。そんな心配、何だかどうでもよくなった。
普段あまりそういう事はしないタチなのだが、なんとなくそのまま別れ難くて「貴方の名前をきいていいかな?」と尋ねた。
彼はニヤッと笑って「僕の名前? "パパ" だよ」と答え、また車椅子を押して待合室を出て行った。
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