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ヲノサトル

リバース・エンジニアリング


美術大学の講義では、映画や音楽など様々な作品を教材として扱っている。

ひととおり鑑賞した後で「さて、この映画、どうでしたか?」と訊くと、「面白かったです」と一言だけ答えて黙ってしまう学生が、けっこう多い。 仕方ないので「で、どこが面白かったの?」と訊くと、面倒くさそうな顔で答える。 「主人公が面白かったです。」

「主人公のどこが面白かったの?」

「考え方。」

「どういう考え方をするところが?」

「面白い考え方。」 「………。」

最初から「主人公の◯◯◯なところが、私には△△△と思われたので、面白かった」というふうに、感じたことの筋道を説明してくれる学生は、なかなかいない。

リバース・エンジニアリングという言葉がある。

機械をいったん分解して、中の配線やら回路やらを観察したり分析したりすることで、その機械がどうやって動いているのか、仕組みを調べることをいう。 何かをつくろうと思っているなら、「感覚のリバース・エンジニアリング」を習慣にすることだ。 なぜ自分が面白いと思ったのか、自分のアタマの蓋を開けて覗いてみよう。「なるほど、こういう仕組みで面白いと感じさせられたのか」とわかれば、次に自分が何かつくる時、その仕組みを応用できる。「面白い」止まりで理由を掘り下げない人に、面白いものはつくれない。

そういうわけで、今日も「面白かったです」と答える学生に「で、どこが?」と質問し続ける、面倒くさい教員なのであった。

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