この土日は、日本ポピュラー音楽学会 の第30回全国大会に参加してきた。
初日、興味のままに聴講した研究発表は
・ライヴハウスPAマンの心情を聞き取り調査した結果
・20世紀初頭の太平洋航路で、日本船の専属バンドはどんな曲を演奏してたか?
・いわゆる「愛国ソング」の分類
・NHK『みんなのうた』誕生の背景
面白そうでしょ? どの発表も面白かった!
中でも 増田聡 さんの「『愛国ソング』の系譜」は、本人の話芸もあいまって学術発表というより抱腹絶倒のエンタメ!急増している日本礼賛系のJポップを仔細に分類し、桜ソング、憂国の長渕、サッカーナショナリズム…などとパワーワード炸裂。研究はこれからだというが、書籍化が待ち遠しい。
実は、この会には昔入っていたが退会し、あらためて入り直したのだった。
なんで今頃また入ったかと言うと、この10年間は息子氏のためにできれば土日を空けておきたかったというのが大きい(学会はだいたい週末だし、各地で開かれるので泊まりで出かける必要もある)。
ようやく手もはなれてきたところで、旧知の毛利嘉孝さんが理事を務めていると知り、再入会の労をお願いしたのであった。
二日目。
午前のワークショップ『定量調査はポピュラー音楽の何をどこまで明らかにできるか』は、大量のアンケートからポピュラー音楽の「聴かれ方」の現在が浮かび上がる濃密な3時間。
スマホネイティヴの今の若者がどんな方法で、どれだけお金をかけて、どんな時間に音楽を聴いているのか。様々な角度からの「数字」で説得力ある検証が展開された。
聴き手に作品をどう届けるべきか、常に考え続けている作り手の1人としては、たいへん勉強になりました。
そしてこのセッションは、最後に発表者・南田勝也さんの「学術的な定量調査は、音楽が今も様々な人々に聴かれ、愛され、人と人を結びつけるコミュニケーションとして機能していることを、俗説や感情論ではなく数字によって示すことができる」といった内容の挨拶でしめくくられた。胸熱!
午後は、学会設立30周年記念シンポジウム。
3時間におよぶ語りから浮かび上がってきたのは、ミッド80'sから90'sにかけての「ニューアカ」ブームから、学問的枠組の再編、学際的な知への移行、冷戦構造の終焉、欧米中心文化の解体、「ワールド・ミュージック」流行……じつは全てがつながっていたということ。この学会の発足も、そうした時代精神と無縁ではなかったのだなと、当時を知る者としてはしみじみ思ったのであった。
かつてのポピュラー音楽研究が周縁的だったり異端的だったりしたのは、ジャンルを問わず文化が正統なメインカルチャーと「サブカル」に区別されていたからではなかったか。美術に対するアニメやマンガやゲームの地位と同様、クラシック音楽に対するポピュラー音楽の地位は基本的には「サブカル」扱いだったのかなと思われる。
だが30年を経て「サブカル」は死語となった。国民皆ヲタク。お上が宣伝にゆるキャラや萌え絵を採用し、万博でも五輪イベントでも前衛音楽ではなくJポップが採用される今の時代、高級芸術もサブカルもひとしく「スーパーフラット」になった。ポピュラー音楽研究も当然、30年前とは別のステージに入っているだろう。
とはいえポピュラー音楽の研究には、美学的な解釈や構造分析だけでは読解できない様々な位相が存在する。(ビジネス、マーケット、メディア、リスナーetc.)したがって「学際的」にならざるをえないわけだが。これについては理事の小川博司さんがいいことをおっしゃってた。
「学際的な研究に必要なのは、異分野の人間が集まることだけでなく、自分の中にある”学際性”を動員することだ」
確かに。研究に限らず、ふだんの人間関係だってそうだ。異業種がただ集まったって交流なんかできない。専門外のあれこれに好奇心を持ち「学際性を動員」しまくってる連中が集まってこそ、宴は盛り上がろうってもんだよね。
というわけで2日間いろいろ考えさせられ、初対面の研究者とも話し、大いに楽しみ、自分へのおみやげに薄い本も買ってホクホクしながら帰路についたのであった。行ったことないけど、コミケ帰りってこういう気持ちではないだろうか。行ったことないけど。
↑ 手に入れた「薄い本」
(2018.11.25)