ヲノサトル

2017年11月24日2 分

資格はあるのか

最終更新: 2019年9月20日

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「乾杯のグラスを持ったまま延々とスピーチを聞かされるのが苦手だ。とにかく乾杯して、飲みながら話を聞こうじゃないか。創作もなんとなく似ている。つべこべ言うよりも作り始めて、作りながら考えようじゃないか」
 

 
と書き、そこからさらに、格言っぽい文章を思いついた。
 

 
「考える前に飛ぶ情熱がなければ、ものはつくれない。飛びながら考える冷静さがなければ、ものをつくる資格がない」
 

 

もちろんこれは、レイモンド・チャンドラーが小説『プレイバック』の中で探偵フィリップ・マーロウに語らせた、有名な台詞のもじりだ。


 
むかし角川映画『野生の証明』のCMでも「男はタフでなければ生きて行けない。優しくなれなければ生きている資格がない」というコピーに流用されていた。
 

 

 
原文は
 

”If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive. “
 

 

ところで、この文章には複数の翻訳があるようだ。


 
「しっかりしていなかったら、生きていられない。やさしくなれなかったら、生きている資格がない」(清水俊二)


 
「タフじゃなくては生きていけない。やさしくなくては、生きている資格はない」(生島治郎)


 
「ハードでなければ生きていけない、ジェントルでなければ生きていく気にもなれない」(矢作俊彦)


 
これって小説の中では、女性に「あなたのようなタフな探偵さんが、どうしてそんなふうに優しくなれるの?」と訊かれて、答えた台詞。

探偵が言いたかったことを意訳すると、「俺なんかが生き延びるにはハードなやり方しかないけど、だからってジェントル(※『優しさ』だけでなく『紳士的』という含みもある)になれなかったら、生きていく価値もない人間なんだ」という感じかなと。


 
要するに「自分語り」というか「俺節」なんだよね。一般論として「〜でなければ、生きている資格がない」と断定しているわけではない。


 
そういう意味では、清水訳や生島訳は正確ではないかもしれないんだけど、日本語としては「資格がない」という、ちょっとカタい言い方が効いて、なんとなく格言っぽく聞こえる。そのおかげで、記憶に残る名台詞になったのではないか。


 
翻訳って面白いなあ。「英文和訳」では伝わらないニュアンスを、日本語でどう表現するか。翻訳に大事なのは、語学力以上に「日本語力」なのだと思う。
 

 

最後にもう一度、この台詞をもじって言わせていただこう。


 
「直訳ができなければ翻訳はできない。意訳ができなければ翻訳する資格がない」
 

ちょっと苦しかったか。

#雑感 #発想

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