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  • ヲノサトル

資格はあるのか


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「乾杯のグラスを持ったまま延々とスピーチを聞かされるのが苦手だ。とにかく乾杯して、飲みながら話を聞こうじゃないか。創作もなんとなく似ている。つべこべ言うよりも作り始めて、作りながら考えようじゃないか」 と書き、そこからさらに、格言っぽい文章を思いついた。 「考える前に飛ぶ情熱がなければ、ものはつくれない。飛びながら考える冷静さがなければ、ものをつくる資格がない」

もちろんこれは、レイモンド・チャンドラーが小説『プレイバック』の中で探偵フィリップ・マーロウに語らせた、有名な台詞のもじりだ。

むかし角川映画『野生の証明』のCMでも「男はタフでなければ生きて行けない。優しくなれなければ生きている資格がない」というコピーに流用されていた。 原文は

”If I wasn't hard, I wouldn't be alive. If I couldn't ever be gentle, I wouldn't deserve to be alive. “

ところで、この文章には複数の翻訳があるようだ。

「しっかりしていなかったら、生きていられない。やさしくなれなかったら、生きている資格がない」(清水俊二)

「タフじゃなくては生きていけない。やさしくなくては、生きている資格はない」(生島治郎)

「ハードでなければ生きていけない、ジェントルでなければ生きていく気にもなれない」(矢作俊彦)

これって小説の中では、女性に「あなたのようなタフな探偵さんが、どうしてそんなふうに優しくなれるの?」と訊かれて、答えた台詞。

探偵が言いたかったことを意訳すると、「俺なんかが生き延びるにはハードなやり方しかないけど、だからってジェントル(※『優しさ』だけでなく『紳士的』という含みもある)になれなかったら、生きていく価値もない人間なんだ」という感じかなと。

要するに「自分語り」というか「俺節」なんだよね。一般論として「〜でなければ、生きている資格がない」と断定しているわけではない。

そういう意味では、清水訳や生島訳は正確ではないかもしれないんだけど、日本語としては「資格がない」という、ちょっとカタい言い方が効いて、なんとなく格言っぽく聞こえる。そのおかげで、記憶に残る名台詞になったのではないか。

翻訳って面白いなあ。「英文和訳」では伝わらないニュアンスを、日本語でどう表現するか。翻訳に大事なのは、語学力以上に「日本語力」なのだと思う。

最後にもう一度、この台詞をもじって言わせていただこう。

「直訳ができなければ翻訳はできない。意訳ができなければ翻訳する資格がない」

ちょっと苦しかったか。


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