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ダンス音楽ブックレビュー

ティ・フォー・トゥー物語 ― アメリカ・ポピュラー音楽への遊歩道

村尾陸男, 中央アート出版社, 2001

 

1923年はハーレムにコットン・クラブが開店した。ダンス・マラソンで90時間10分の記録に挑戦した男が、87時間で昏倒して死亡。

本書は、ミュージカル劇場で生まれたポピュラー歌曲『Tea For Two (二人でお茶を) 』が、モダンジャズのスタンダード・ナンバーとして定着していったプロセスを、音楽理論と社会文化史との両面から丁寧に検証している。実際の演奏を収録したCDも付録についているので、ジャズ理論の学習者には編曲法のケース・スタディとしても有益だ。

 

個人的には、合衆国におけるダンス・ミュージック揺籃期の様々なエピソードがたっぷりと描かれている第1部が面白かった。

 

ここには自動ピアノ、レコード、ラジオなどの新しいテクノロジーによって音楽が「大衆化」していった様子、すなわち「ポピュラー音楽」がどのように成立していったか、活写されている。また、それに呼応して高まっていった20世紀初頭の「ダンス・クレイズ (ダンス熱)」についての情報やエピソードも豊富で、楽しい。

 

中でも、アフリカからアメリカ大陸に奴隷が売買された際、東西アフリカのどの部族がどの国に移動させられたかによってジャズ、ルンバ、サンバといった音楽の違いが生まれていったという指摘が興味深い。

 

カソリック系が支配者であった南米諸国では太鼓 (ドラム) が許可されたが、プロテスタント系の北米ではそれらが禁止された。結果として北米の黒人音楽は、アフリカ起源の音楽としてはリズム要素の希薄なスタイルで開始されざるをえなかった。

 

とはいえ、ワルツやポルカのようなヨーロッパ産の音楽やダンスと、ラグタイムのようなアメリカのポピュラー音楽やダンスの最大の違いがリズムにあるのは間違いない。

 

身体感覚としての「シンコペーション」。それこそは20世紀、世界中のポピュラー音楽文化にアメリカが与えた、最大の影響なのだから。

 

(2007年1月23日)

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